2021-05-30 皕門時小説『♥』 小説 昨日までこの部屋には愛が満ち溢れていた。 僕のじゃないコップで水を飲み、誰もいない部屋を眺める。 寄り添って並ぶ歯ブラシを一つだけ使い、僕の趣味じゃないシャツを着て、僕が好きだったわけじゃないピザトーストを作る。 僕のじゃない僕の部屋。 僕のじゃなかった僕が僕の元に戻ってきてしまった。酷く悲しそうな顔をして。 僕は僕のために生きられるようになるのだろうか。 僕のじゃないもので心はいっぱいだったのに。