霖雨の森にて、

独り言を、

皕門時小説『♥』

 

 

昨日までこの部屋には愛が満ち溢れていた。

僕のじゃないコップで水を飲み、誰もいない部屋を眺める。

寄り添って並ぶ歯ブラシを一つだけ使い、僕の趣味じゃないシャツを着て、僕が好きだったわけじゃないピザトーストを作る。

僕のじゃない僕の部屋。

僕のじゃなかった僕が僕の元に戻ってきてしまった。酷く悲しそうな顔をして。

僕は僕のために生きられるようになるのだろうか。

僕のじゃないもので心はいっぱいだったのに。